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「ブレーキ痕なし」のニュース記事から学べること #ブレーキ痕 #マスコミ

トラックと観光バスが衝突し5人が亡くなるという悲しい事故が発生した。この手の事故では相変わらず「ブレーキ痕なし」と強調して報道されるのだが、ABS(アンチロックブレーキシステム)が普及した現代においても意味のある情報なのだろうか?

北海道新聞より)

こちらの北海道新聞の記事では、タイトル『トラックのブレーキ痕なし 過失致死容疑、運転手の勤務先捜索 八雲5人死亡事故』となっており、本文には『現場にトラックのブレーキ痕が残っていないことが19日、捜査関係者への取材で分かった。』とある。

疑問(1)ABS装着車においてもブレーキ痕は残るのか?

速度が高い状態で強くブレーキをかけるとタイヤがスリップしてロック(回転しない状態)する。ABSはタイヤのロックを検知してブレーキを緩める装置だ。ABSが働いている状態では、タイヤはロックした状態とロックしていない状態を繰り返すのでブレーキ痕は破線状になる。

なお、ドライバーが知っておくべきは、ABSが「短距離で停まるための装置」ではなく「制動中に操舵を可能にする装置」である事だ。制動距離は条件によって長くなる場合もあるが、タイヤがスリップすることでハンドル操作が効かなくなる問題を回避できる。ドライバーには「制動と共に操舵で回避する」事が求められる。

疑問(2)「ブレーキ痕なし=ブレーキを踏まなかった」は正しいか?

ABSの有無に関わらずブレーキを強く踏まなければ痕は残らないが、一般的なドライバーがタイヤがロックするほどの強いブレーキの操作を咄嗟に行うのはなかなか難しいそうで、パニックブレーキを体験させる講習なども存在する。職業ドライバーは皆その程度のスキルを持ち合わせてると思いたいが、ブレーキ痕がないからといって「ブレーキを踏まなかった」と断定できるものではない。

また、ABSに頼らず制動距離を最小にするためには「タイヤがロックしない範囲で最大の強さ」でブレーキを踏めばよい。この場合もブレーキ痕は残らない。もちろんこれは単なる理屈であって、非常事態に人間が実践するのは無理だろう。しかし、それに近い操作を実践した(あるいは実践しようと努力した)可能性を否定するものではない。

そもそも路面状態や速度などの条件が揃っていなければブレーキ痕は残らないもの。さらに今時の多くの車は緊急ブレーキを装備しているので「ブレーキ痕はあるけどドライバーはブレーキは踏んでいなかった」というパターンも想定しなければならなかったりする。

疑問(3)マスコミは何故「ブレーキ痕なし」が好きなのか?

結局のところ「ブレーキ痕がない」という事実から判るのは「その場所でタイヤがスリップしなかった(可能性が高い)」という点だけで、それ単体でドライバーのブレーキ操作やその他の要素について確定的な情報をもたらすものではない。ABSの有無も関係ないので、実は昔から意味がない情報だったとも言える。

ではなぜ飽きもせず「ブレーキ痕なし」のタイトルで記事が出回るのか。今回の事故は「トラック側に過失致死の疑い」と発表されるに至ったが、これはブレーキ痕の有無だけでなく他の様々な事実から公平かつ客観的に判断されたものだ。当然そうでなければならない。しかし、タイトルには「ブレーキ痕なし」が入る。わざわざ「捜査関係者への取材」までして入れる。何故?

自分の車にABSが付いているかすら気にしない人々にウケるのだ。そのような人々は簡単に「ブレーキも踏まなかったなんて!寝てたのか?よそ見してたのか?悪いやつだ!」となる。「みなさーん!悪いのはこいつでしたよー!責任取らせましょうー!」と煽るための「ブレーキ痕なし」なのである。

例えばバスのブレーキ痕にも触れているなら、意味があるかはさておき「事実を公平に伝えたのだ」という筋も通ろう。しかし、それはしないのである。ABSについての解説などあれば世の中の役に立つし、読者に考察を促す効果があるかもしれない。しかし、そんなことは絶対にしないのである。読者は頭を使わず記事を鵜呑みにしてくれた方が都合が良いという訳だ。

我々が気を付けるべきこと

タイトルに「ブレーキ痕なし」と入れるような報道機関の記事は、その全てを疑ってかかりたいものだ。

私はたまたま「自称クルマ好き」をやっているので「ブレーキ痕なしには疑問あり!」という体でこのように掘り下げているわけだが、普段興味がない分野においては同様の作為的な記事に簡単に踊らされてきたに違いないのだ。常に自分の頭で考えて判断する必要があると毎度思わされる。

本来なら報道機関には『過失致死の疑いに至った経緯が本当に公平かつ客観的だったのか?』を検証して伝えてる位のことを期待したいのだけどね。実際やってることは「みなさーん!」なんだもの。役には立たんわ。